診断書にまつわるリスク

先日、日本医事新報社の企画で、ヒラハタクリニックの平畑光一先生と対談させていただきました。

全3回の対談動画なのですが、今回は「診断書の作成義務」というテーマについて、補足しておきたいと思います。

まず、ご案内のとおり医師法19条2項で「診察若しくは検案をし、又は出産に立ち会つた医師は、診断書若しくは検案書又は出生証明書若しくは死産証書の交付の求があつた場合には、正当の事由がなければ、これを拒んではならない。」と規定されています。すなわち、診察した医師には、法律上、診断書を作成交付する義務があるということになります。

しかし、保険金請求や交通事故、刑事事件に関わる診断書となると、医師としても「トラブルに巻き込まれるのではないか」などと診断書作成に消極的になることもあると思います。

前述のとおり、医師法で診断書の作成義務が規定されていることから、正当な理由なく診断書の作成を拒絶するとトラブルになる可能性もあるので注意が必要です。

具体的には、損害賠償請求の裁判が起こされるという場合もあります。実際に患者が、診断書の作成を拒否した医師に対して、慰謝料請求の裁判(民事)を起こしたというケースがあります(東京簡易裁判所平成16年2月16日判決)。

このケースでは、結局慰謝料の支払いは認められませんでしたが、重要なのは、裁判所が診断書の作成を拒否できる正当な事由の具体例を挙げている点です。判決の該当部分を見てみましょう。

診断書が詐欺、脅迫等不正目的で使用される疑いが客観的状況から濃厚であると認められる場合、医師の所見と異なる内容等虚偽の内容の記載を求められた場合、患者や第三者などに病名や症状が知られると診療上重大な支障が生ずるおそれが強い場合など特別の理由が存する場合に限って、拒否すべき正当事由が存在するとして交付義務を免れることができると解するのが相当である。

つまり、犯罪に利用されることが明らかな場合や虚偽の記載を求められたという極端な場合は、診断書の作成を拒否できますが、それ以外の場合は基本的に診断書の作成を拒否することはできないと考えられます。

診断書の作成義務があるとして、やはり気になるのが、患者の申告が虚偽だった場合、医師も責任を問われるのではないかという不安です。

医師としては、根拠に基づいた診断書であれば、責任を問われることはないと考えられます。この裁判例でも下記のように示されている点が参考になります。

検査に異常が認められず他覚症状も認められない場合には、その旨を患者に説明し、それでも診断書の交付を求める者に対しては、本人の訴える自覚症状(主訴)及び検査、診察の結果、医師としての判断した結果を記載した診断書を交付すべき義務があり、交付自体を拒否することはできないと解するのが相当である。

これ以外でも、傷害事件の診断書の記載(加療10日などの記載)でも悩まれるケースは多いと思います。確かに、加療の日数に関しては、受傷当初に正確に判断できることは少ないでしょう。

もちろん、検察としては診断書の加療期間に応じて、求刑を決めるという側面もあります。しかし、加療期間だけからすると、明らかに当該事案に当てはめたときに、求刑が重くなりすぎたり、軽くなりすぎる場合には、捜査機関側から医師に意見を求めるということを行うことが多いので、この点も大きな問題にはなりません(捜査機関から医師への意見照会は必ずしも診断を避難する趣旨ではないです。)。

交通事故の事案でも、当初の診断書には「加療一週間」と記載されている一方で、実際には、頚椎捻挫等で約6ヶ月治療後、後遺障害(後遺症)が認定されるなどというケースも多いです。

上記の例は、実は一般的なもので、決して当初の診断書の記載が誤りということではありません。交通事故の損害賠償の裁判(民事)でも、当初の診断書の記載が問題視されることはまずありません。

これに関連して、整形外科の先生からは交通事故の後遺障害診断書の作成についてご質問をいただくことも多いです。交通事故における後遺障害診断書の記載については、医師会等(柏市整形外科医会、茨城県医師会、広島県臨床整形外科医会など)で講演させていただいた経験もありますので、お気軽にご相談いただければと思います。

以上

文責:弁護士 川﨑翔