厚生局による処分事例の解説~東海北陸厚生局(薬局)のケース

はじめに

今回は、厚生局による保険医療機関等への処分事例について、個別指導帯同の経験等を踏まえて解説をしていきたいと思います。

取り上げるのは東海北陸厚生局から令和5年6月16日付けで「取消相当」との処分があった薬局のケースです。

処分の概要

管轄の厚生局:東海北陸厚生局
処分内容:保険薬局の指定の取消相当
処分理由:施設基準に関する虚偽の届出とそれに基づく診療報酬の不正請求
不正請求額:450万円超

保険薬局のケースですから、保険医療機関とは事情が違いますが、どのような調査経緯をたどり、そして処分に至ったのかという点は、厚生局の姿勢を理解する上でも重要だと考えています。

報道によると、時系列は以下のとおりです。

令和3年4月:厚生局に匿名の情報提供
令和3年12月:個別指導実施⇒個別指導中断
令和4年1月:個別指導再開⇒個別指導中止
令和4年3月~10月(計5日間):監査実施
令和5年6月:取消相当の処分

匿名の情報提供

保険医療機関においても「匿名の情報提供」が個別指導のきっかけになっていると思われるケースが経験上多いです(もちろん、個別事案について厚生局はどのような情報提供があったのかという点について回答してくれませんが。)。

実際、厚生労働省発表の「令和3年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況」でも下記の記載があります。

5. 保険医療機関等の指定取消等に係る端緒

(1) 保険者等からの情報提供 19件 ※保険者、医療機関従事者、医療費通知に基づく被保険者等
(2) その他 7件 ※警察の摘発、個別指導、県立入検査

今回のケースでは、「処方箋の受付回数が1月に1,800回を超えないよう情報を改ざんしている。」「調剤基本料の点数が、42点から26点に減らないようにしているからだと思う。」という情報提供があったようです。

個別指導の実施、中断及び中止と監査への移行

匿名の情報提供を受けた東海北陸厚生局は、当該保険薬局に対して、個別指導を実施しました。そこで、情報提供に沿う事情が発覚したため、関係資料の精査が必要として個別指導を中断しました。

個別指導の中断とは、調査等の必要があり、個別指導の続行が困難と厚生局が判断した際に一旦当日の個別指導の終了させることを指します(ただ、「中断」は、少なくとも行政手続法上の概念ではなく、やや恣意的な運用がされている印象もあります。)。

なお、当職が帯同した個別指導において、個別指導の中断を行う旨、宣告されたことがありますが、当職から「法的な根拠なく、厚生局の判断で勝手に指導を終わらせ、再度指導を再開させることは違法です。」と述べた結果、中断の判断が撤回された経験があります。

話を本件に戻しましょう。

中断後、再開された個別指導においても、情報提供に沿う内容、具体的にはデータの改ざんや虚偽の報告が確認されたため、監査に移行することとなったようです。

合計5日間の監査が行われ、虚偽の報告や不正請求の事実が認められたため、取消相当との判断が下ったという流れになります。

なお、「取消相当」とは、処分が出る前に保険医療機関や保険薬局の廃止等の手続をとった場合に下されるものです(法的には処分対象となる保険医療機関や保険薬局がないため、「取消」ではなく「取消相当」という処分になるわけです。)。

今回のケースから学ぶべきことは何か

当然、意図的に虚偽の報告を行い、診療報酬を不正に請求することは許されることではありません。今回のケースが、厚生局の監査のとおりであったとするならば、処分は相当なものでしょう。

一方で、厚生局は「故意」でない保険請求の誤り(過誤)について、監査に移行させて処分を下すという姿勢ではないと理解しています。

個別指導の趣旨について指導大綱は「指導は、保険医療機関等及び保険医等に対し「保険医療機関及び保険医療養担当規則」(昭和32年厚生省令第15号)(中略)等に定める保険診療の取扱い、診療報酬の請求等に関する事項について周知徹底させることを主眼とし、懇切丁寧に行う。」と規定しています。

つまり、診療報酬の請求等について、誤りが発生することを前提に「保険診療の取扱い、診療報酬の請求等に関する事項」の周知徹底を行うと定めているわけです。

したがって、厚生局の見解と相違する保険請求の場合、診療報酬の自主返還といった措置はありますが、保険診療の現場から退場させる(=取消や取消相当)ということが目的ではないということになります。

本件のような実際の処分例を見てみると、故意による不正請求が、処分の対象となっていることがよくわかります。

個別指導を「適切に恐れる」、つまり、自主返還等のリスクが生じうるものとして理解しつつ、適切な保険診療をおこなっていくことこそが重要です。

文責:弁護士 川﨑翔