医師の働き方改革

先日、リーガルフォース社が提供する「契約ウォッチ」というウェブサイトに医師の働き方改革に関する記事を寄稿しました。

制度の詳細については、記事をご参照いただければと思いますが、今回は記事に書ききれなかった部分等について解説したいと思います。

■医師の働き方改革の始動

2024年から「医師の働き方改革」が本格的に始動します。

一般企業においては、すでに2019年4月から【残業時間の上限規制】が行われていました(中小企業は2020年4月から)。具体的には、時間外労働の上限は年720時間・単月100時間未満と規定されています。

医師は当分の間、この規制の適用を受けないということになっていました。

しかし、ついに2024年からは医師の働き方についても、法的な規制が及ぶことになります。

具体的には、医療機関においても、具体的には【年960時間・単月100時間未満(特別条項付きの36協定を締結する必要がある)】と規定されました。この規制に違反した場合、6か⽉以下の懲役または30万円以下の罰という刑事罰が科せられる可能性もあり、注意が必要です。

■理想と現実~特定労務管理対象機関という区分

ただ、厚生労働省の調査では、年1860時間を超える時間外労働を行っている医師も多く、すべての医療機関に一律の上限規制を加えてしまうと、医療現場の崩壊を招くことは明らかです。新型コロナウイルス感染症の第7波の影響を受けている現状においてはなおさらでしょう。

厚生労働省側も当然このような事態は認識しており、上限規制を緩和するため「特定労務管理対象機関」という区分を規定しました。
救急医療や居宅等における医療等を提供する医療機関や研修プログラムを提供している医療機関は、都道府県から指定を受けることで、【年1860時間・単月100時間未満】に上限規制が緩和されます。

ただし、特定労務管理対象機関に指定されるためには、都道府県に「医師の労働時間短縮のための計画(医師労働時間短縮計画)」の案を都道府県に提出する必要があります(特定労務管理対象機関に指定された後は、医師労働時間短縮計画を定めることになります。)。

特定労務管理対象機関として上限規制の緩和を受けたとしても、医師労働時間短縮計画に従い、労働時間短縮を行う必要があるという訳です。

■追加的健康確保のための措置

時間外労働の上限規制以外にも、「追加的健康確保のための措置」が規定されたことも特徴です。月の上限を超えて勤務している医師がいる場合、面接指導の上、必要に応じて、労働時間の短縮、宿直の回数の減少等、必要な措置を講じなければなりません。上記に加え、医療機関としては、下記の措置をとるよう努めることになります(努力義務)。

  1. 連続勤務時間を28時間に制限すること
  2. 勤務間インターバルとして9時間を確保すること
  3. 休息中に労働に従事した場合、代償休息を付与すること

労働時間だけでなく、医師の健康確保を実質化するという目的がうかがえます。
通常の医療機関にとってはあくまで努力義務ですので、強制力はありません。しかし、今後、上記の措置がとられているかどうかが、医師の就職転職にあたっての重要なポイントになるという時代がくると考えています。その結果、医療機関としては、事実上、上記の措置をとらざるを得ないということになるでしょう。

特定労務管理対象機関においては、上記①~③の措置は法的義務となります。その点からも、医療機関において、時間外労働の上限規制以外の「追加的健康確保のための措置」が一般化するものと思われます。

■医師の働き方改革の今後

今後は、特定労務管理対象機関においても、都道府県に提出した「医師労働時間短縮計画」の履行を求められるほか、時間外労働の上限規制もさらに厳しくなることが予想されます(厚生労働省の資料では、特定労務管理対象機関の上限も「将来に向けて縮減方向」と記載されています。)。

デジタル化や多業種との連携(タスクシフト・タスクシェア)を含め、医療機関の労務構造を大きく変える転換点になるかもしれないと考えています。