「『解雇』はどうしていけないのか?」という記事を週刊『医事新報』に寄稿しました。
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=17239
記事にも書きましたが、解雇には極めて大きなリスクを伴います。
日本の裁判では「解雇が有効」と判断される事例が極めて少ないためです。
解雇されたスタッフから「解雇無効」の裁判が起こされると
- 院長、理事長が裁判対応・準備にリソースをとられてしまう(裁判は月に1回程度の割合で進むので、裁判が終了するまではかなり時間がかかります。)。
- 「解雇が無効」と裁判所に判断されてしまうと、全く働いていな当該スタッフに、裁判終了までに給与を支払う義務が生じる。
- 裁判が行われていることで他のスタッフの動揺を招くだけでなく、2.のようにクリニックから当該スタッフに多額の金銭が払われたこととなると、クリニック全体に士気が下がる。
というデメリットが満載です。
そこで、医療機関の顧問弁護士としては、問題を起こすようなスタッフであっても、解雇を行うことには慎重であるべきです。
業務態度等に対する改善を求め、場合によっては退職勧奨⇒自主退職という方法を選択することも考えなければなりません。
そうならないためには、採用におけるミスマッチを避ける(採用時にクリニックと合う人材であるかを十分精査する)ということが極めて重要になります。退職勧奨だけでなく、採用時の対応についても、是非顧問弁護士を利用していただきたいと思います。
本ブログについての用語解説
退職勧奨
「退職勧奨」は、「病院側が特定のスタッフに対して、会社を辞めてもらうよう依頼・説得すること」です。
退職勧奨をいつ、どのように行うかは病院側の自由です。
しかし、方法を誤ると「退職強要」であるとされてスタッフから慰謝料を請求されるリスクが生じてしまうため、注意が必要です。
退職勧奨と退職強要の間には明確な線引きがありませんが、最低限、退職勧奨は「スタッフ本人の自由な意思によって退職するかどうかを決定できる」ものであることを頭に入れておきましょう。つまり、形式上は「退職を勧める」行為であっても、心理的圧力をかけて自分から退職させようとする行為ならば退職強要に当たるということです。
例えば、本人が退職を拒否しているにもかかわらず何度も執拗に面談を重ねたり、面談で大声を出したり、長時間拘束したり、スタッフの自宅まで押しかけて面談したりすることは退職強要に当たることが多いです。
本ブログに関連する質問と回答・解説
Q. 紛争調停委員会から「あっせん開始通知書」が届きました。解雇したスタッフがあっせん申請人となっていて、慰謝料の支払いを求めているようです。どのように対応すればよいですか。
A. 「あっせん」とは、第三者が間に入って、紛争解決のための話し合いをする場です。参加は任意なので、参加しないのであれば連絡票の「参加しません」の欄にチェックをして紛争調停委員へ送付すれば手続きは終了します。
ただ、あっせんに参加しなかったり、あっせんで話がまとまらなかったりした場合、今度は労働審判の申立てや訴訟提起がなされる可能性が高いです。早期解決のために、あっせんを申し立てられた段階で一度弁護士に相談されることをおすすめします。
以上