クリニックに民法改正は関係ない?

医学系の書籍・雑誌等を出版する会社から、民法改正がクリニックに与える影響に関する記事執筆のご依頼をいただきました。

今回の民法改正は約120年ぶりの大改正で、従来の考え方から大きく変更されている部分も少なくありません。

クリニックで使用している書式(特に同意書)を見直す機会にするというのもいいかも知れませんね。

民法改正がクリニックに与える影響について以下にご紹介します。


2020年4月1日、改正民法が施行されます。 約120年ぶりの大改正であり、従来のルールから変更されている点も多いです。

ここではクリニックの経営と関係がありそうな部分を解説します。 産婦人科などでは、入院の際、保証人の署名押印をお願いしているというクリニックも多いと思います(介護施設でも同じような対応をしていることが多いでしょう。)。

上記は、医療費の未払いに備えるための「個人根保証契約」ということになります。 今までは、「極度額」つまり「保証人が最大でいくらまで負担する可能性があるのか」という点を明示する必要はありませんでした。

しかし、民法改正後は、「極度額」の記載がなければ「個人根保証契約」が無効になってしまいます(改正民法465条の2)。

このように、クリニックでも民法改正による影響は少なくありません。 書式の見直しなど、一度弁護士相談されてみてはいかがでしょうか。

消滅時効期間の統一

改正の目玉のひとつに「消滅時効期間の統一」があります。

現行法では、債権の種類によって消滅時効の期間は異なります。 たとえば、診療報酬債権の消滅時効は3年、弁護士報酬は2年と規定されています。

非常にわかりにくいですね。

改正民法では、一般債権について、【主観的起算点】権利を行使できることを知った時から5年 【客観的起算点】権利を行使することができる時から10年 というかたちで統一されます。

診療報酬債権の時効は延長されることになります。
しかし、「消滅時効期間の統一」で医療機関・クリニックへの影響がもっとも大きいと思われるのが【残業代など(賃金等請求権)】でしょう。

消滅時効が5年に統一される事に伴って、消滅時効の延長が議論されているのが、【残業代等の賃金債権】です。

厚生労働省の「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」では「現行の労基法上の賃金請求権の消滅時効期間を将来にわたり2年のまま維持する合理性は乏しく、労働者の権利を拡充する方向で一定の見直しが必要ではないかと考えられる。」と述べられています。

現行法では、残業代等の消滅時効は2年とされています。
改正民法と同じく5年に延長された場合、請求される残業代が単純に2.5倍になる可能性があります。

クリニックにおいても、残業代請求を受けるリスクは決して軽視できるものではありません。

労働時間を適正に管理できる体制を整える必要があるでしょう。

以上

文責:弁護士 川﨑翔