医療機関の顧問弁護士をしていて、意外と相談が多いのが「秘密保持契約書」です。
一見、医療機関とは関係が無いようにも思えます。
しかし、新薬や新しい治療法の開発について、製薬会社等と共同研究を行う場合、秘密保持契約は必須になってきます。
また、医師が専門的な知識を用いて新たなビジネスを展開する場合も、検討段階では秘密保持契約を交わした方が良いという場合もあります。
秘密保持契約においては、「何を秘密保持の対象となるべき情報とするか」という点など、作成やチェックにおいて留意すべき点があります。
秘密保持契約の必要が生じた場合には弁護士に相談することをお勧めします。
本ブログについての質問と回答・解説
Q. 秘密保持契約書といっても漠然としかイメージがわかないのですが、具体的にはどのようなものなのでしょうか?
また、契約締結する注意点や時期等も併せて教えてください。また、情報開示する場合、秘密保持契約書締結以外に注意する点はありますでしょうか?
A.
1. そもそも秘密保持契約は必ず締結しなければならないものではありません。しかし、例えば、自社の秘密情報を他社に開示する場合、その秘密情報が外部に漏れてしまうと困ってしまうことも多いかと思います。そのため、秘密情報を開示するなどその情報の取り扱いについて注意して欲しい場合には、秘密保持契約の締結を検討した方がよいこととなります。
2. 秘密保持契約の対象とする秘密情報の範囲ですが、営業秘密については不正競争防止法により、不正利用等について一定の制限が定められています。しかし、秘密保持契約では不正競争防止法で保護されている営業秘密よりも広い範囲を保護の対象とすることができるため、より開示情報の保護を充実させることが可能となります。
3. 秘密保持契約を締結する際に特にチェックした方がよい点は、以下の点です。
(1) まず、対象とする秘密の範囲について、開示する側からすると、可能な限り網羅的かつ曖昧にならないように特定もする必要があります。
次に、秘密情報を開示するに際して、受け取った側が誰にどこまで開示してよいのかということを明確にしておく必要があります。限定しなかったり広く設定すると、それだけ情報が漏れていく可能性が高くなります。
(2) また、情報の利用方法についても、開示先がその秘密情報をどのような目的で利用するまで許可するのかといったことも明記する必要があります。
開示した側が意図しない用途にまでその秘密情報が利用されてしまうと、想定外の不利益が生じる可能性があるからです。
(3) それ以外にも契約毎に注意すべき点は異なりますので慎重に内容は吟味する必要があります。
(4) 秘密保持契約を締結する時期ですが、一般的には取引を開始しようとするときに結ぶことが多いと思われますが、取引開始時に限られるものではありません。
例えば、既存の取引先に対して、何か新しい情報を開示しようとするときには、その情報について秘密保持契約書を結んだ上で、情報開示をすることが良い場合もあります。
(5) 現在の情報社会では、新たな情報はすぐに広まってしまいます。多くの資金を投じて獲得した情報や、ライバル他社との差別化を図る上で重要な自社の情報はビジネスにおいて非常に価値が高いものといえます。
そのため、現在は、ますます秘密保持契約を締結することの重要性が高まっているといえます。
しかし、秘密保持契約書は当然ながら万能ではありません。
一度、自社の貴重な情報を相手に開示してしまうと、仮に秘密保持契約書を結んだとしても、その自社の秘密情報が相手方でどのように利用されているのかを監視することには限界があります。
賠償を求めても限界があり取返しがつかない損害が生じてしまうこともありえます。そのため、重要な自社の情報を開示する際には、きちんとした秘密保持契約書を締結することはもちろんですが、その締結先も十分吟味した上で、秘密保持契約書の締結・情報開示を行うべきです。
以上