10月8日の日経新聞に「残業代1.2億円未払い 都立の小児病院 待機時間算入せず」との記事が出ていました。
立川労働基準監督署から是正勧告を受けたとして、東京都立小児総合医療センターが残業代の支払いを行ったというニュースです。
夜間や休日の対応について、時間外労働の割増賃金(残業代)よりも安い「宿直手当」で対応しているケースも多いでしょう。しかし、本件のように「夜間や休日の対応も、通常の労働時間である」と判断されると待機時間も含めて割増賃金の支払いをしなければなりません。
当直のある病院において、残業代請求は死活問題と言っても過言ではありません。
今後、医療機関に対しても労働基準監督署が積極的に是正勧告をしてくるという可能性もあります。
事前に弁護士等の専門家に相談し、対応しておくことが重要でしょう。
本ブログについての用語解説
宿直手当
「断続的な宿直勤務」に対して支払う対価で、残業代に関する割増賃金の規定の適用が無いもののことです。
宿直の時間は、待機しているだけの時間も含めて全てが労働時間にあたります。そのため、本来であれば労働法の残業代の規定が適用され、通常の賃金に加えて割増賃金を支払わなければなりません。
しかし、「断続的な宿直勤務」に関しては、所轄労働基準監督署長の許可を受ければ労働時間・休憩時間・休日の規定の適用が除外され、残業代や休日手当といった割増賃金を支払う必要がなくなり、事業者が定めた宿泊手当を支払えばOKということになります。
ただし、もちろん宿直手当の金額についても一定の規制はあります 。具体的には、同じ職場で宿直することが予定されている同種の労働者に支払われる賃金の1人1日平均の3分の1以上の金額でなければなりません。
本ブログについての質問と回答・解説
Q. なぜ上記のケースでは是正勧告を受けたのでしょうか。
A. 労働基準監督署が、同医療センターの宿直時間中の勤務状況は、通常の業務より負担が少ないとは言えないと判断したためです。
宿直手当の対象となる「断続的な宿直勤務」に当たるのは、ほとんど労働する必要がない勤務(定時巡回、非常事態に備えた待機等)だけです。宿直時間中、通常の勤務と同じくらい忙しかった場合は「断続的な宿直勤務」に当たるとは言えず、通常の勤務時間として扱わなければなりません。その結果、宿直手当ではなく、通常の賃金に残業代・休日手当の規定を適用した割増賃金を足した金額を支払う必要が出てくるのです。
つまり、上記のケースは、同医療センターが「この勤務状況なら宿泊手当で大丈夫だろう」と考えていたところ、労基署が「そんなに働いているなら割増賃金を支払いなさい」と是正勧告をしてきたということです。
できるだけ人件費を抑えたい医院側としては、宿直全てについて宿直手当で済ませたいという気持ちはわかります。しかし、是正勧告を受けると医院の評判も下がりますし、良い人材も集まりにくくなります。宿泊手当を適用してよいかどうか、不安がある場合は早めに弁護士に相談して、行政措置のリスクを避けましょう。
以上