1. はじめに:在宅クリニックへの行政処分
2025年3月21日、関東信越厚生局は、ある在宅クリニックに対し、重大な保険診療上の不正があったとして、保険医療機関および保険医の取消しの行政処分を行いました。
なぜ、このような事態に至ってしまったのか、どのように対処すべきであったのか、といった点をポイントに解説していきたいと思います。
2. 行政処分の概要
保険医療機関(当初の個人開設及びその後の法人開設の双方)については、指定の取消相当の処分がなされています。
すでに廃止された医療機関であることから、正式な「取消」ではなく「取消相当」としての処分ですが、法的な意味合いはおなじです。
一方、理事長である医師も保険医の登録の取消処分を受けています。
これにより、医師個人も保険医としての診療ができなくなるため、極めて重い処分であると言えます。
3. 処分理由
本件では、実際には行っていない往診や訪問診療を実施したかのように装い、診療報酬を不正請求したこと(架空請求)や実際に行った診療に対し、行っていない診療内容を追加して診療報酬を請求したこと(付増請求)が理由となって、今回の処分に至っています。
なお、本件では理事長の医師に対しては、刑事裁判において、懲役2年執行猶予4年の有罪判決が言い渡されています。
4. 処分に至った経緯
問題となったクリニックが「不正な請求を行なっている」との情報提供が当局に寄せられていたようです。
本件では個別指導を経ることなく監査が実施されていますが、個別指導についても、新規指導や高点数を理由とした個別指導以外は、第三者からの情報提供(保険者や患者、従業員など)によるものが多いようです。
患者調査により、架空請求や付増請求の事実があきらかになったため、今回の処分に至ったと発表されています。 実際に認定された不正請求額は2000万円超(約120件)となっています。
5. 今回の処分から学ぶべきことは何か
保険医療機関の指定取消や保険医の登録取消といった強力な処分は、極めて悪質な場合に下されるということがわかります。
本件では実際に有罪判決も受けており、刑事裁判においても悪質性が認定されたといえます。
一方で「診療報酬の請求の仕方を間違った場合や個別指導において自主返還を求められた場合も不正請求とされて同様の処分を受けるのではないか。」との不安をお持ちの先生方も多いと思います。
新規指導や個別指導について、当事務所にご相談いただく先生のほとんどが同じような不安を口にされます。
しかし、本件のように詐欺罪を構成するような「故意による不正請求」といった悪質な場合は別として、診療報酬の請求方法の誤りや厚生局や保険者との見解の相違について、こういった処分がなされることはまずありません。
厚生局も保険医療機関の指定取消や保険医の登録取消が、医師に対する事実上の「死刑宣告」となることは十分理解しています。
厚生局もこのような処分をすることに対してはかなり慎重に判断しています。
万が一、医療機関側が処分を裁判で争い、処分が違法であったといった判決になった場合、医療機関への賠償金など、大きな問題になるでしょう。
「厚生局から診療報酬の請求について指摘があった⇒処分の可能性があるから反論しない」と簡単に判断してしまうのではなく、請求内容や診療内容が適正であることを厚生局に説明していくことも重要です。
当事務所が対応した事例で、個別指導後に指摘された事項についても、厚生局と意見交換することで、自主返還額が減額された例もあります。
また、情報伝達のミスや現場の判断ミスで、明らかに誤った診療報酬の請求をおこなってしまったというケースもあるでしょう。
こういった場合も、厚生局や保健所等に対して、事実の報告や今後の改善策を真摯に伝えることで、重大な処分を回避できたケースがあります。
6. まとめ:トラブルは初動対応が重要
いずれにしても、医療機関運営を行う上で、透明性を確保することは重要です。
記録を残し、後から検証が可能な状況にしておけば、万が一トラブル等がおこっても適切な対処が可能になります。また、こういった処分やトラブルに対しては初動が極めて重要です。
すぐに相談できる専門家を確保するという意味でも、顧問弁護士は有用であると思います。
ご不安な点があれば、ぜひお気軽にご相談ください。