NHKのニュースサイトに「“性的暴行の妊娠中絶 加害者の同意不要” 医師に徹底を要望」との記事が掲載されていました。
記事では「性的暴行を受けて妊娠し中絶手術を希望したものの、医療機関が必要のない加害者の同意を求めるケースが相次いでいる」と記載されています。
結論から申し上げると【性的暴行により妊娠したケースで、人工妊娠中絶を行う場合、本人の同意のみで手術可能】です。
人工妊娠中絶の根拠になっている母体保護法は下記のような規定をしています。
(医師の認定による人工妊娠中絶)
第十四条 都道府県の区域を単位として設立された公益社団法人たる医師会の指定する医師(以下「指定医師」という。)は、次の各号の一に該当する者に対して、本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる。
一 妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの
二 暴行若しくは脅迫によつて又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの
2 前項の同意は、配偶者が知れないとき若しくはその意思を表示することができないとき又は妊娠後に配偶者がなくなつたときには本人の同意だけで足りる。
「暴行若しくは脅迫によつて又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠した」ケース(14条1項2号)では、当然人工妊娠中絶を行うことができます。
人工妊娠中絶に必要なのは「本人及び配偶者」の同意であって、加害者の同意は必要ありません(※「配偶者」とは「届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様な事情にある者」を含みます(3条1項)。)。
母体保護法は条文は少ないのですが、人工妊娠中絶の根拠法であって極めて重要です(昨年10月の千葉県産婦人科医学会では「母体保護法に関する法的諸問題」という演題で講演をさせていただきました。)。
本ブログについての質問と回答・解説
Q. 中絶希望の患者が来ましたが妊娠に至る事実関係がいまいちあいまいです。どうすればよいですか?
A. 慎重な対応が必要です。特に、患者が話している内容に裏付けの客観的な証拠があるかどうかを慎重に確認しましょう。その上で、同意書がなくても手術ができるケースかどうか判断しましょう。
Q. 「届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様な事情にある者」とはどのようなものですか?
A. 婚姻届を出していないだけで、その他の点は全く普通の夫婦と同じであれば問題なく該当することが多いでしょう。ただ、「事実上婚姻関係と同様な事情にある者」の判断が微妙な事案もありますので要注意です。
本ブログについての用語解説
母体保護法
不妊手術及び人工妊娠中絶に関する堕胎罪の例外事項を定めること等により、母性の生命健康を保護することを目的とする法律です。不妊手術に関する事項、母体保護に関する事項などが定められています。
参考リンク:母体保護法
配偶者
通常は配偶者という用語は婚姻届を出している夫婦の相手方のことを指します。
具体的には、夫にとっては妻が配偶者、妻にとっては夫が配偶者となります。
ただし、母体保護法では婚姻届を出していない事実婚でも配偶者として扱われることがあります。
以上