個別指導の現状(平成30年度)

厚生局が行う個別指導の状況については、多少のタイムラグがありますが、毎年公表されています。現時点では、令和元年12月19日付で「平成30年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況について」が公表されています。

【個別指導】4,724件(前年度比 107件増)
【指導による返還分】32億7869万円(前年度比 約1億5000万円増)

返還金が経営に与えるインパクトも大きいですが、個別指導の準備や指導後の改善報告についても、大きな労力を要します。

重要になってくるのは「カルテの記載」です。
外来管理加算や特定疾患療養管理料などは、カルテの内容から「どのような指導を行ったのかがわかる」かどうかで、指導対象とされるかどうかが分かれます。

忙しい日々の診療の中で、十分なカルテ記載を行うことは難しい部分もありますが、厚生局との関係でも、患者さんとの関係でも、詳細なカルテの記載がクリニックを守ることにつながります。

本ブログについての質問と回答・解説

Q. 最新の個別指導の状況はどのようになっているのでしょうか?

A. 現在(令和4年7月6日時点)厚生労働省が公表している最新の情報は令和2年度についてのもので、個別指導の件数等は以下のとおりです。

【個別指導】1,797件(対前年度比  2,918件減)
【特徴等】令和2年度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点から、個別指導、新規個別指導及び適時調査の実施の見合わせ等を行っていたため、実施件数が前年度比で大幅に減少している。

令和2年度は新型コロナウイルスの影響で個別指導件数も激減しています。
しかし、平成27年~平成30年にかけて個別指導件数は毎年増加傾向にあり、令和元年には微減したもののそれでも4700件を超えていました。そのため、新型コロナウイルス感染が落ち着いてくれば、また個別指導件数は4700件/年ちかくまで増えると考えられます。

Q. 個別指導を受けた場合は、必ず返還金を支払わなければならないのでしょうか?

A. 個別指導の結果、特に問題がないと判断された場合は返還金を支払う必要がありません。
一方で、不適切な診療報酬請求があったと判断されると、自主的に返還金を支払うよう求められます。その場合は、対象となったレセプトの内容を医療機関が自主点検して、過大に請求していた診療報酬分を該当する保険者へ直接返還する(または次回以降の診療報酬から控除する)ことになります。

実は、この返還金の支払いは法律上の義務ではありません。厚生大臣はあくまで任意に返還することを求めているのです。しかし実際にはほとんどの医療機関が自主返還に応じており、厚生大臣による返還の求めは「事実上の返還の強制」となっているのが現状です。

Q. カルテの記載について気を付けたほうがいい点を教えてください。

A. 以下の点は個別指導で指摘されやすいので気を付けてください。

  • 病名の整理をきちんと行う(疑い病名から確定病名への変更、転帰等)
  • 自費診療と保険診療で診療録を分ける
  • 保険医療機関及び保険医療養担当規則の様式第1号(1)の1~3をきちんと作成する
  • 診療録の修正については、修正前の内容がわかるよう二重線で行う

また、指導管理料の算定に必要な事項(指導・管理内容や治療計画等)の記載が全くなかったり、読めなかったりする場合は多額の返還金を求められる場合があるのでこの点も注意が必要です。

以上

文責:弁護士 川﨑翔